溢れるほどの自然に囲まれた長閑な村、オゼット。

新たな仲間にリーガルを加えミズホの里を出た一行は、ガオラキアの森を抜けてプレセアの住むその村へと足を踏み入れる。

始めはそのままアルテスタの家へ向かおうという話になっていたのだが、あまり自己主張しないプレセアの『家に帰りたい』という主張を優先する事になったのだ。

「あ!プレセア!!」

先頭を歩いていたプレセアが、村に入った途端に駆け出す。―――慌てて声を掛けるジーニアスにも反応を返す事無く、振り返らぬまま村の奥へと消えて行った。

 

の瞳に映るもの

 

「あ〜らら、行っちまった」

「プレセア、凄く帰りたそうだったからね。何か気になる事があるのかもしれないわ」

プレセアの去った方向を眺めながら、とゼロスはのんびりとそんな会話を交わす。

そんな2人を恨めしげに見上げて、ジーニアスはすぐ側に立つロイドの手を引いて勢い良く駆け出した。

「ロイド!追いかけよう!!」

「あ、ああ・・・」

ジーニアスの剣幕に押され、流されるままにロイドも手を引かれ走り出す。

「おーおー。必死だネェ、ガキんちょ」

「よっぽどプレセアが好きなのね。それにしてはあまり報われてないみたいだけど」

「それ、本人の前で言うのはやめなよ、2人共」

2人の会話を聞いていたしいなが、呆れた表情で釘を差しロイド達の後を追う。

それに同意を示すでもなく否定するでもなく、とゼロスはのんびりと仲間たちの後を追った。

オゼットはそれほど広い村ではない。

プレセアの家がどこにあるのかは解らないが、見つけるのもそう難しい事ではないだろうと楽観的にもそう思い、とゼロスは急ぐでもなくゆっくりと村の中を歩く。

その途中で向けられる視線に気付いたのは、果たしてどちらが先だったのか。

少なくともそれを確認する必要が無いほど、向けられる視線は鋭い敵意を含むものだった。

「あ〜・・・確かここって、教皇の生まれ故郷だとか聞いた事ある、俺様」

お世辞にも居心地が良いとは決して言えない雰囲気を感じながら、ゼロスが思い出したとでも言うように呑気な声でそう言った。

ゼロスの言葉に『ああ、なるほど』と簡単に相槌を打って、は無遠慮に辺りを見回す。―――するとこちらに視線を向けていた村人たちは見回すからサッと視線を外し、まるで逃げるように何処かへと去って行った。

「ここでプレセアは生活してるのね」

「あんま、居心地良さそうには見えねぇけどな」

「・・・そうね。どうしてかしら?」

村人たちが姿を消し静かになったそこをぼんやりと眺めながら適当に返事を返したゼロスは、不思議そうに首を傾げるを見下ろして同じように首を傾げる。

「どうしてって、何が?」

「どうして村人たちは、敵意に満ちた目でプレセアを見るのかしら?どうやらこの村は教皇の思想同様にハーフエルフには厳しいみたいだけれど、プレセアはハーフエルフじゃなくて人間よ」

「・・・そりゃま、そうだけど」

の言葉に困ったように返事を返し、ゼロスはポリポリと頭を掻く。

そんなこと俺様に聞かれても・・・と返したいところだが、どうやらはその答えを自分に望んでいるわけではない事に気付き、何も言わずに歩みを進めた。

ゼロスの考え通り答えを期待していなかったも、先ほどと同じように辺りを見回しながら歩く。―――ゼロスの答えが無くとも、の性能の良い耳は村人たちの話し声をしっかりと捕らえていたから。

だから、何故プレセアが疎まれているのか・・・その疑問は難なく解決を見せた。

村人たちのコソコソした話し声を聞きながら、はゆっくりとゆっくりと歩みを進める。

自然とゼロスに遅れを取る形となるが、前を歩くゼロスはを振り返りはしなかった。―――彼女がいつもとは違う雰囲気を纏っていることに気付いたのかもしれない。

足を踏み入れれば二度と出られないと恐れられる森を越えた場所に存在する、人里離れた場所にある小さな村。

心を穏やかにし、また人を和ませる豊かな木々に囲まれていても、ある意味閉鎖された空間で暮らす人間たちの心もまた、閉鎖的なもので。

だからこそ、メルトキオのような多くの人がいる場所よりも、差別などは根強く残っている。―――多くのハーフエルフに関わる事などないから、尚更。

は足を止めて、ゆっくりと目を閉じた。

暗闇に包まれた視界の中に浮かぶ、懐かしい光景。

それは良い思い出ばかりでは勿論無かったけれど・・・―――それでも今の彼女を形成している根底にあるモノばかり。

「・・・まるで、昔に戻ったみたい」

ポツリと呟いて、粟立つ心を宥めながらゆっくりと目を開いた。

かつて彼女が暮らしていた場所。

気の遠くなるような昔、まだ彼女の年齢が外見相応だった頃暮らしていた場所。

まるで彼女の記憶をそのまま抜き取ったかのようにそっくりなこの村は、の心に負の感情を溢れさせるには十分すぎた。

あの頃の記憶が、感情と共に甦る。

けれど決してこの村は自分の知る場所のものではないと己に言い聞かせ、は止まっていた足を再び動かした。

ここで感傷に浸り立ち止まっている暇はない。―――その必要もまた、ない。

心の中で呟き気を取り直してそのまま歩き続ければ、先ほどまでポツリポツリと立っていた民家が少なくなっていく。

とうとう民家の姿が見えなくなるほど村の外れまで来ると、更にその先に木で作られた古びた一軒の家が目に映った。

何かを主張するようなその家目指すと、家の前にロイド達が立っている。―――どうやらここがプレセアの家のようだ。

先に歩いて行ったゼロスの姿もそこにある。

ゼロスは漸く姿を見せたを目に映して、からかうような笑みを浮かべた。

「ずいぶん遅かったじゃねーの。ここ急斜面が多いからな・・・そろそろ身体に堪えるような歳になったか?」

「・・・女性に歳の話は禁句よ」

「つーか、聞いた事なかったけど・・・お前って実際何歳な訳?」

「プレセアは?」

興味津々とでも言いたげなゼロスの言葉を無視して、はロイドに声を掛ける。

隣で「スルーかよ!俺様、寂し〜」と喚くゼロスも当然無視された。

「プレセアは?」

「あ、ああ。なにか仕事とかで家の中に・・・」

2人の遣り取りを見ていたロイドは、簡潔なの問いに慌てて返事を返す。

「・・・仕事?」

「そう!なんか変な男が家の前にいてさ。協会の儀式に使う神木は、プレセアじゃないと取りにいけないって・・・。プレセアは、早く要の紋を作らないといけないのに・・・」

見るからに落ち込んだ様子で、ジーニアスは心配げにプレセアの家を見詰める。

確かに、プレセアの無感情の原因は、エクスフィアを制御する要の紋がついていないことが原因だ。―――反対に言ってしまえば、要の紋さえ手に入ればプレセアは普通の状態に戻ることが出来る。

そしてその要の紋を作る事が出来るドワーフは、この村からそう遠くない場所にいるのだ。

このまま要の紋が無い状態で放っておけば、いつクララのように魔物化してしまうか解らない危険性もある。

しかしだからといって、あのプレセアが大人しくそれを聞き入れてくれるとも思えない。

「あの男・・・やっぱりハーフエルフだわ」

さてどうしようか・・・と考えを巡らせ始めたの耳に、リフィルの警戒に満ちた堅い声が届いた。

「あの男が?そういえばあいつ、前にメルトキオでも会ったような・・・」

そんなリフィルの独り言とも取れる言葉に、ロイドも神妙な表情で頷く。

2人の言う『あの男』という人物に心当たりが無いは、少しだけ眉間に皺を寄せて小さく首を傾げた。

「あの男って・・・?」

「あ、そっか。メルトキオの時も別行動してたから、は知らないんだっけ」

リフィルのハーフエルフという言葉に少しだけ警戒しながら、は出来るだけそれを表に出さずに慎重に問い掛ける。

するとロイドは今思い出したと言わんばかりに表情を変え、に視線を向けた。

「メルトキオで変な男に会ったんだよ。別に何かされたわけじゃないんだけど・・・」

「何だか気持ち悪い人だったね〜・・・」

「同感。あれで俺様と同じ男として生まれたんだと思うと、かわいそうでもあるけどな。うひゃひゃ!」

ロイドの言葉に、コレットとゼロスが同意するように男への感想を述べる。

「同じレベルじゃないの?」

「・・・このクソがき」

そこへすかさずジーニアスが突っ込みに入り、ゼロスは浮かべていた下品な笑みを引きつったものへと変え、恨めしげにジーニアスを睨みつけた。

そんな遣り取りを眺めていたは、再びプレセアの家へと視線を戻す。

ロイド達がメルトキオで会った、変な男。

協会の儀式の為に、神木を求めているという男。

リフィルの見立てに寄れば、その男はハーフエルフなのだという。―――リフィルの見立てが間違っているとはには思えないので、その男は間違いなくハーフエルフなのだろう。

そして、これほどまでに気持ち悪がられる男。

揃った状況証拠に、は一瞬嫌な予感がした。

その全てに当てはまるだろう男に、心当たりがある。――いや、しかし。

「・・・どうした、?」

黙り込んだに気付いたリーガルが、覗き込むように腰を折ってそう問い掛ける。

それに何でもないと笑みを浮かべて、未だ喧嘩するゼロスとジーニアスの仲裁に入るべく2人に近づいた。

もしも、その男がの推測する人物だとして。

ここでと会ったならば、彼はそれをユグドラシルに報告するだろうか?

自問に答えは返ってこない。―――確立は半々というところだろう。

けれど今現在のは、記憶喪失だという事を前提としてではあるが、こうして自由に振舞う事をユグドラシルに黙認されている。

ならばいくら男がそれをユグドラシルに報告しようとも、それほど状況が悪化する事は無いかもしれない。

ただの記憶が既に戻っているということさえ悟られなければ、何も問題は無い。

そう考えると、ロイド達に記憶が戻ったということを知られたのはまずかった。

の仲裁に大人しく喧嘩を止めたゼロスとジーニアスを宥めながら、頭の片隅でそんなことを考える。

その時、今まで比較的静かに場を見守っていたリーガルが全員に声を掛けた。

「とにかく、一度プレセアと話をした方が良いだろう」

各々なんの協調性も無く好き勝手していた一行は、リーガルの言葉に納得し、同意を示す。

確かに何時までもここで騒いでいても仕方が無い。

「ああ、そうだな」

「んじゃ、ちょっくらお邪魔しますか」

ロイドが頷いたと同時に、ゼロスが軽い口調でそう呟きプレセアの家へと向かった。

他の面々もそれに続く。

それに習ってプレセアの家へ向かうは、小さく溜息を零しポリポリと頭を掻いた。

確かに不安な面は多々あるけれど、今それを考え込んでいても仕方が無い。

どうせなるようにしかならないのだ。―――特に有効な対応策があるわけでもない以上、どうしようもない。

そう開き直って、は肩に入っていた力を抜いてロイド達に続きプレセアの家のドアをくぐった。

 

 

「・・・このにおい」

最初に異変に気付いたのは、一番最初にプレセアの家に足を踏み入れたロイドだった。

家中に充満する、鼻を突くような異臭。

あのメルトキオの下水通路など比ではない。―――まるで本能が警鐘を鳴らすような感覚に陥った一行は、その先に進む事無くその場に立ち尽くす。

「・・・あれ!」

その時、何かを見つけたのか・・・コレットが驚愕の表情を浮かべて、続く部屋の奥を指差した。

それに促されるように視線を向けた一同は、思わず息を呑み目を見開く。

「・・・な、なんてこと」

「おいおいおい、シャレになんねーぞ・・・」

零れるように、感情が言葉となってその場に響く。

そのゼロスとリフィルの呟きを耳に、は立ち尽くしたままのロイド達を置いて、ゆっくりと部屋の奥へと足を進めた。

ベットの側にある椅子に座るプレセアの横に立ち、感情の読み取れない表情を浮かべたまま、彼女の視線の先を見下ろす。

「・・・プレセア。この人は?」

「父、です」

静かな声で問い掛けると、同じく静かな声で返事が返って来る。

は視線をベットに横たわる人物から外す事無く、ゆっくりと優しくプレセアの頭を撫でた。

「眠っているのね」

「はい。病気・・・ですから」

「・・・そう」

素っ気無いほど短い会話に、しかしプレセアは満足そうに1つ頷く。

プレセアの頭を撫でる手に力が篭らないよう気をつけながら、は眉根を寄せて強く唇を噛み締めた。

「・・・どうしてこんな事に」

「おそらくは、エクスフィアの寄生の為よ。あのベットの中の人間がどうなっているのか、プレセアには解らないのね」

しいなの呟きに、気丈にもリフィルがいつも通りの冷静さを取り戻し、状況の推測を始めた。―――その声が微かに震えていた事から、完璧にいつも通りを演じられたわけではないことを示していたけれど、今それに気付く事が出来るほどの余裕がある人物はこの場にはいなかった。

悲痛なジーニアスの呟きを聞き流しながら、はまるで睨み付けるようにベットの中の人物・・・―――プレセアの父親を見詰める。

既に命の灯火は消え、その身体は朽ち、今は骨しか残っていない。

人がこんな状態になるのに、一体どれほどの時間が必要なのだろう。―――そしてプレセアは、一体どれほどの時間を物言わぬ父親と過ごしてきたのだろうか。

「・・・エクスフィアの・・・せいで」

小さく低く唸るように呟き、は胸の内に渦巻く暗い暗い感情を押さえ込むようにきつく目を閉じる。

これが、クルシスのして来たことに対する、犠牲者の現実。

たとえどれほどの言葉を並べようとも、こんな事が許される訳が無い。

たとえどれほどの理由があろうとも、何の罪も無い少女がこれほどの苦しみを味わって良い筈がない。

これが、歪んだ思想を食い止められなかった・・・食い止めなかった故の末路。

「早く・・・早くプレセアを元に戻してやろう」

沈黙が沈む室内に、ロイドの強い声が響く。

「・・・この状況を見たら、きっとプレセアは苦しいと思う。―――でもこのままで良い筈がないんだ。だから・・・」

「そうだね」

想いが上手く言葉にならない様子のロイドを見詰めて、しいなが微かに微笑み頷く。

どれだけ悔いても、この状況は変わらない。

どれだけ嘆いても、プレセアの父親は生き返ったりはしないのだ。

ならばせめて今生きているプレセアだけでも、エクスフィアの寄生から救う事こそが今出来る最善の事だろうから。

「・・・プレセアは行かないのか?」

決意を固めたロイド達からプレセアに視線を移して、リーガルが控えめに問い掛けた。

しかしプレセアは視線を返す事無く、ただ首を横に振って。

「仕事・・・しないといけないから」

そう言うと仕事の為の準備だろうか・・・なにやら支度を始める。

そのプレセアの動きを見ていたリフィルは、小さく溜息を吐きロイドに向き直る。

「プレセアは置いていきましょう」

「こんな所にか!?」

「今のままではまた彼女が暴れるだけよ。私たちだけでアルテスタの所へ行って、要の紋の修理について聞いてきましょう」

「・・・そうだな」

リフィルの提案に1度は抗議の声を上げたロイドだが、最もなその意見に渋々ながらもそれを承知した。

話は纏まったとばかりに、一刻も早く要の紋を手に入れる為、ロイド達は足早にプレセアの家を出て行く。―――しかしはそれに続く事無く、ただ物言わぬプレセアの父を見詰め続けていた。

「・・・どうしたの、?」

そんなに気付いたコレットが、ドアの側で立ち止まり振り返る。

コレットの声に漸く視線をベットから逸らしたは、無表情のままベットの側にある窓から広がる景色に目をやった。

「・・・私」

「・・・うん、どうし・・・え、ゼロス!?」

ポツリと呟いたに、コレットは優しい声色で返事を返す。―――が突然自分の横を通り部屋の中に戻っていった赤い髪の青年に、思わず声を上げた。

ゼロスはそのまま窓の外を見詰め続けるの腕を強く握り、強引に視線を合わせるといつも浮かべている笑みを引っ込め真剣な表情で向き直る。

「・・・ゼロス」

「忘れんじゃねーぞ。―――お前は誰の護衛だ?」

呆然とゼロスの名を呼ぶに、彼は強い口調でそう問い掛ける。

それに軽く目を見開いたは、我に返ったようにゆっくりと瞬きを繰り返し、そうして小さく溜息を吐き出した。

「・・・解っているわ」

短くそう言い残して、まるで逃げるように部屋を出て行くを見送って、ゼロスは苦い表情を浮かべて彼女の後を追う。

途中困惑した様子のコレットをいつもの調子で和ませて、プレセアだけを残して彼女の家を出た。

『・・・私』

その後に続く言葉は、聞かなくとも簡単に想像できる。

おそらくは、たった1人でプレセアを残しておく事が不安で、自分もここに残ると言うつもりだったのだろう。

別に彼女がそれを望むなら、それでも良かった。

確かにはゼロスの護衛だが、わざわざつきっきりで守ってもらわなければならない程弱い訳ではないし、確かにあまり離れているのは本位ではないけれど、が強くそれを望むなら仕方が無いとも思う。

ただし、の様子がいつも通りであれば・・・の話だが。

プレセアの家に足を踏み入れた瞬間から、の様子は可笑しかった。

確かにある意味極限状態の場で、いつも通りを保つ方が可笑しいのかもしれないが、今回の場合はそうではなく・・・―――なんと言うのだろうか?

まるで、今にも消えてしまいそうなほど儚げだというか・・・。

身体は確かにここにあるのに、心はここにはないというか・・・―――ともかくも、このまま離れれば二度と会えないのではないのかという危機感を抱かせるほどの危うい雰囲気が、先ほどのにはあった。

プレセアの家を出れば、そこには出て来るのが遅いゼロスを待つロイド達の姿が。

「なにやってたんだよ、ゼロス」

「まぁまぁ、とにかく行こうぜ」

不満顔で文句を投げかけるジーニアスを軽くあしらい、ゼロスはロイド達の背中を押して村の外へと誘導する。

後ろからしっかりとが付いてきている事を、横目で確認しながら。

その視線に気付いたが困ったように笑うのを見て、ゼロスは不思議と強張っていた身体からゆっくりと力を抜いた。

 

 

オゼットを出てアルテスタの住む家に到着した後、アルテスタに会うというロイド達とは別れ、1人家の外で待つ。

少し気分が優れないから外の空気を吸っていたいとそう言えば、ロイド達は呆気ないほどあっさりとそれを了承した。

確かにそう言い訳が立つほどの出来事があったのは事実だけれど、あまりにも素直な彼らにほんの少し心配を抱いたのも確かだ。―――にとっては、都合が良かったが。

それが自分に対する信頼の証だとするならば、それを利用している事に罪悪感が芽生えないでもなかったけれど。

アルテスタというドワーフを、は知っていた。

勿論彼がテセアラにいる事も・・・―――詳細な居場所までは知らなかったが、けれど彼がテセアラにいるという事実に、は関わっていたから。

だからこそ、はアルテスタに会う事を避けた。

極力人と関わる事を避けているだろうアルテスタが、ロイド達の頼みを快諾してくれるとは思えないが、しかしがいれば余計にそれは難しくなるだろう事も彼女は知っている。―――自分がその場にいれば、彼を怯えさせるだけだという事も。

「上手く行けば良いのだけど・・・」

言葉に期待を織り交ぜて呟き、はそこらに転がる大きな岩に腰を下ろして澄み渡る空を見上げた。

目に痛いほどの太陽の光を受けて、薄く目を細める。

「・・・この目で見てからじゃないと、気付けないなんて」

苦々しげに呟いて、は眉間の皺を深く刻んだ。

オゼットで見た光景が、脳裏に焼き付いて離れない。

エクスフィアがもたらすモノが。

人にとって幸せではない事など、解っていた筈なのに。

それなのに、自分たちが故意に目を逸らしてきた現実。―――それを突きつけられなければ気付けないなんて。

なんて愚かで、そして傲慢なのか。

自分には関係がないと、心のどこかで思っていたのではないのか。

そんな自分に、誰かを責める権利などある筈がない。

静かに目を閉じて、震える息をゆっくりと吐き出す。

不意に物音がしてそちらを振り向けば、アルテスタに会いに行ったロイド達が彼の家から出て来る。

「お待たせ、。・・・気分はどう?」

「大丈夫よ。それより要の紋はどうだった?」

少し心配げに見上げてくるジーニアスに、まるで何事も無かったかのように微笑みかけ、は話を擦り変えるようにそう問い掛けた。

すると途端にロイドとジーニアスが憤慨した様子で、家の中であった出来事を話し出す。

やはりアルテスタは、エクスフィアに関わることに拒否を示したようだ。

しかし彼の助手であるタバサという女性から、抑制鉱石を手に入れれば良いというアドバイスを受けたらしく、一行は抑制鉱石のある場所を知るリーガルの案内で、南の大陸にある鉱山地帯を目指す事に決めた。

行き先が決まれば全は急げと言わんばかりのロイドは、すぐさまエアカーに乗る事が出来る浅瀬を目指して歩き始める。―――途中で何度もの体調を心配する彼らに苦笑を向けながらも、は極力いつも通りを装って歩き続けた。

優しく明るい、希望に満ちた笑顔を浮かべるロイド達を見詰め、の胸が微かに痛む。

自分は、彼らを裏切っている。

本当の事を知れば、きっと彼らはを許さないだろう。

そしてもまた、許しを乞うことはない。

こうして共に旅をしていても、彼らとの辿る道はどこまで行っても平行線のままなのかもしれない。

いつか、彼らの笑顔が歪んでしまうかもしれないと解っていても。

憎しみを向けられるかもしれないと解っていても。

それでももう引き返せない。―――抱いてしまった望みは、もう消す事など出来ないから。

だからせめて今だけは。

こうして共にいる今だけは、出来る限りの力になりたいと・・・そう思う。

たった1人の少女でも、この目に映ったのならば助けたいとそう思うから。

いつか真実が明らかになる、その日までは。

 

 

浅瀬に着いた一行は、すぐさまエアパックからエアカーを取り出し海に浮かべる。

そうして一言。

「絶対に、には操縦させないからね」

宣言するように言い放たれ、は引きつった笑みを浮かべた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

くどいほどに、暗い展開が続きます・・・。

もう題名が思いつきません。何かてけと〜に無理矢理付けてる感が否めませんが。

暫くプレセアが戦線離脱。

今現在の悩みは、鉱山探索をどの程度すっ飛ばすか。(それか)

作成日 2005.11.15

更新日 2011.5.1

 

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