「どわああぁぁぁぁぁぁあ!!」

薄暗く狭い坑道内に、ロイド達の悲鳴が響き渡った。

一目散に下層へと続く通路を駆け下りる彼らの後方には、簡単に人を押し潰せそうなほどの大岩が1つ。

ゴロンゴロンと重そうな音を立てて、今まさに彼らに襲い掛からんとしている。

「な、何であんなもんが鉱山にあるんだよ!!」

「ここには貴重な鉱石が多くある。それを狙う侵入者から鉱石を守る為に、あのような装置が取り付けられているのだ」

「んな呑気な事、言ってる場合か〜!!」

しいなの非難の声に、こんな状況にも関わらず冷静を保つリーガルが、律儀にそんな説明を始めた。―――それに対し、逃げるのにいっぱいいっぱいなゼロスが悲鳴のような声を上げる。

抑制鉱石を求め、鉱山に足を踏み入れてから早数時間。

彼らの鉱山探索は、波乱に満ちていた。

 

悲しみと決意のちる場所

 

鉱山が崩れないよう細心の注意を払い、とジーニアスの手によって巨大大岩を魔術で砕き難を逃れた一行は、その後も数々の罠を何とか潜り抜け、無事に目的である抑制鉱石を手に入れることに成功した。

その後、その抑制鉱石にまじないを施す必要がある事に気付いたロイドは、それをする事が出来るアルテスタかロイドの養父であるダイクの元へ向かう事を提案したけれど、一度会い話をしたアルテスタがそれをしてくれるとは到底思えず、少しの不安はあるがまじないを彫れるロイドにそれを託す事に決め、一行は坑道の入り口付近でロイドがまじないを彫り終えるまで休息を取る事にした。

ロイドの養父であるダイクに頼めば要の紋を彫ってはもらえるだろうが、一刻も早くプレセアを正気に戻す為、悠長にシルヴァラントへ渡る方法を探す暇はない。

コレットの時同様に、上手く行く事を祈るしかなかった。

集めた薪をくべ、まじないを彫るロイド以外の全員がたきぎを囲むように座り込む。

そうして疲れた身体と精神を休めていたが、不意にしいながたきぎに向けていた視線を上げ、少しだけ頬を引きつらせて正面に座るを見据えた。

「あのさ。ちょっと・・・聞いときたいんだけど」

「どうかした、しいな?」

「それ、いつまで連れとく気だい?」

そう言って指差された先にあるモノを見て、以外の全員がそれぞれ困ったような表情を浮かべる。

はそれを確認してから、己の足元をうろちょろする小さな生き物に目をやった。

「いつまで、って言われても・・・」

「オサケくれー!オサケー!!」

戸惑うの声を遮り、その小さな生き物は外見に似合わない言葉を叫ぶ。

この小さな生き物の名前は、クレイアイドル。

鉱山探索中に偶然出会ったのだけれど、何故か彼は様々な暴言を吐きながらも一行に付いてここまで来てしまったのだ。

「なんか・・・お前、えらい懐かれてねーか?」

の隣に座るゼロスが、奇妙なものを見るような目つきでクレイアイドルを見下ろす。―――そんな彼にクレイアイドルは暴言を吐くけれど、そのチマチマした動きは酷く愛らしい。

そう思えるのは、暴言を向けられていない者だけだろうが。

「昔から変な物に好かれる性質なのよね、私。―――ほら、精霊とか」

「精霊を変な物扱いするのは止めなさい、

サラリと零れた暴言とも取れる言葉に、さり気なくリフィルが突っ込む。

しかし本人はそんなことを気にも止めず、興味深そうにクレイアイドルを軽く突っついて遊んでいた。

「可愛いよね〜、この子」

「か・・・可愛い、かなぁ?」

ニコニコと笑みを絶やさないコレットに、ジーニアスは困ったように返事を返す。

あっという間に収集が付かなくなったこの場に、しいなは疲れたように溜息を吐き出した。

「だが、酒と言ってもそれらしいものは携帯していないぞ?」

律儀にも道具袋の中を探っていたリーガルがそう報告する。

この中で誰も酒を飲まないということは勿論無いが、道具袋を管理するリフィルが余計な物を購入しているとは思えない。―――リーガルの言葉にそう結論を下したは、足元でぴょこぴょこ跳ねるクレイアイドルを見て、さてどうしようかと思案した。

ここまで付いて来た以上、酒を与えなければこの先も付いてくる可能性もある。

はそれでも良かったが、流石にこんな小さな生き物を危険な旅に連れて行くのには抵抗もある。

酒・・・酒と、何かそれらしい物が無かったかと思い巡らせたは、ふとある事に思い当たり、道具袋の隣に置いてある食料袋を漁りだした。

「え〜っと・・・あった」

小さく呟いて袋から取り出したのは、小さな緑色の瓶。

その瓶に張ってあるシールの文字を確認して、は満足げに微笑んだ。

「あの・・・、それって・・・」

「料理酒って書いてあるんだけど・・・」

控えめなセイジ姉弟の声に、しかしは更に笑みを深める。

「お酒であることに変わりは無いでしょう?」

「いや・・・それは酒っつーか」

「はい、どうぞ」

ゼロスのツッコミを待たずして、は料理酒をクレイアイドルの目の前に差し出す。

「おー!これがオサケか!!」

「そうよ。これがお酒よ」

淀みなくサラリとそう言い切るに、一同はもう何も言うまいと口を閉ざした。

一方クレイアイドルはその言葉を鵜呑みにし、漸く与えられた酒を前にして目を輝かせる。

そうしてそれに手を伸ばし・・・―――蓋を空ける事無く、瓶ごとそれを口の中に放り込んだ。

「び、瓶ごと・・・」

「あんなに小さい体のどこに、瓶が入ったんだろうね〜」

思わず引くしいなとは対照的に、コレットが感心したように声を上げる。

それを気にする様子なく、漸く酒を堪能できたクレイアイドルは、先ほどまで付きまとっていたのが嘘のようにあっさりと坑道内に姿を消した。

まるで台風が去った後のような心境に、一同は呆然と坑道内を見詰め続ける。

「これで万事解決ね」

厄介払いが出来たと・・・が楽しそうに呟いた事に、気付いたものはいただろうか?

一同が漸く正気を取り戻したのは、まじないを彫るべくたきぎの側から離れていたロイドが戻ってきた頃の事。

勿論、様子が可笑しい一同に、ロイドが首を傾げた事は言うまでもない。

 

 

多少の心配の種はあったものの、無事抑制鉱石を手に入れオゼットに戻ってきた一行は、そこで再びピンチに見舞われていた。

ガオラキアの森で撤退したと思われていた教皇騎士団が、プレセアの家の側で一行を待ち伏せしていたのだ。―――予想外の出来事に、彼らに隠れる暇があるはずもなく、発見されたと同時に騎士たちが襲い掛かってくる。

「何でこんな所に教皇騎士団がいるんだよっ!!」

「今はそんな事を言っている場合ではなくてよ」

繰り出される攻撃を何とか受け止めながら非難の声を上げるロイドを、リフィルがいつも通り冷静な口調で嗜めた。

しかしロイドが上げた最もな疑問を、同時にも抱いていた。―――いや、そう思っていたのはだけではないだろう。

何故、行く先々に教皇騎士団がいるのか。

まるで待ち伏せされているように思えるのは、果たして気のせいなのだろうか?

「ゼロス!」

「おうよ!俺様におまかせ〜」

上手く連携を取り、数で勝る教皇騎士たちを片っ端から倒していく。

一応村の中である為、派手な魔術は使えない。―――しかしがゼロスの護衛となってから数々の神子暗殺者を撃退してきただけあり、2人の連携に隙はなかった。

いくら数で勝るといっても、その実力には明らかな差がある。

それほどの時間も掛からず教皇騎士たちを全て倒した後には、漸くオゼット特有の静かな雰囲気が戻ってきた。

ほんの少し上がる息を整えて、ロイドは抜き身の剣を鞘に戻してプレセアの家を見る。

これほどの騒ぎがあったにも関わらず姿を見せないという事は、プレセアは今家にはいないのだろうか?

そう思ったロイドは、ふと隣に立つコレットの表情が優れない事に気付き、不思議そうに首を傾げて優しく声を掛けた。

「どうしたんだ、コレット?どこか怪我でも・・・」

心配そうな顔でそう問い掛けるロイドに、コレットは微かに笑みを浮かべて首を横に振る。

しかし次の瞬間、再び憂鬱な表情を浮かべて地面に視線を落とした。

「ごめんね、ロイド。私が神子だから・・・。私のせいで教皇騎士団に追われて・・・みんなに迷惑かけちゃって・・・」

苦しみが滲み出すような声に、ロイドを始め全員が表情を歪める。

「何言ってんだよ、コレット!コレットは何も悪くないだろ!?」

「そうだよ。それに僕たちだって、ハーフエルフって事で追われてるんだし・・・」

「あたしだって、裏切り者のミズホの民だって、王家と協会から追放された立場だし」

「教皇騎士団に狙われているのは、貴女だけのせいではないのよ」

次々に掛けられる言葉に、顔を上げたコレットは戸惑ったように微笑む。

そんなコレットに近づき、は彼女の頭を優しく撫でながらにっこりと笑顔を浮かべた。

「そうよ、コレット。教皇騎士団が私たちを狙っている大半の理由は、ゼロスが教皇にそれはもう心当たりが有り過ぎるほど恨みを買っているのが原因なんだから。何も貴女が気に病む必要はないのよ」

「やっぱり、オチは俺様かよ」

サラリと当然だとばかりに言い切るに、ゼロスがささやかなツッコミを返す。

それを見ていたコレットは、暗い表情を消して小さく微笑む。

しかしその笑顔にロイドたちが安心したのも束の間、今まで何事もない様子だったコレットが急に蹲り、堪えきれない呻き声を上げた。

「痛っ!!・・・くうぅ・・うう」

「コレット!?」

突然の出来事に、驚いたロイドが同じように跪きコレットの顔を覗き込む。

「先生、コレットが!!」

その顔に浮かぶ苦悶の表情に、ロイドは助けを求めるようにリフィルを呼んだ。

ロイドの声にコレットに近づくリフィルに場所を譲るように一歩下がったは、穏やかだった表情を微かに歪め、リフィルの身体越しに見えるコレットを見詰める。

コレットは本来、とても我慢強い子だ。

それは神子暗殺という目的を持ってはいたが、時に近くで再生の旅を見てきたはよく知っている。

コレットが負の感情を見せたのは、世界再生の舞台で力を解放し、天使へと変わっていく際にもたらされる身体の負担を受けた時だけだ。

それは同じく神子であるゼロスにも言える。

確かに2人の性格や表現方法は多少異なるものの、滅多に弱みを見せない所や、何があっても平気を装っているところなどはとても似ている。

数年とはいえゼロスの側にいたに、そんなコレットの内心が読み取れないわけが無かった。

そのコレットがこれほどの痛みを訴えているのだ。―――考えられるのは・・・の知る知識の中では1つしかない。

それは予想された出来事であり、また今のコレットには避けられない問題である事も知っていたけれど。

まさか、こんなに早く来るなんて・・・。

心の中でそう呟き、あまりのコレットの痛がりように訝しげな表情を浮かべるリフィルを見やる。

「・・・どいて。私に・・・任せてください」

不意に抑揚のない声が響き顔を上げると、そこには何時の間に姿を現したのか。―――変わらぬ無表情で立つプレセアの姿が。

「プレセア?え、ええ・・・」

突然の出現に戸惑いながらも、自分ではどうしようもないという事を察したリフィルが素直にプレセアに場を譲る。

しかしは、そんなプレセアを見詰め眉間に皺を寄せた。

一体、プレセアは何をするつもりなのだろう?

コレットのこの症状が、プレセアに治せないことをは知っている。

けれどプレセアには何か考えがあるようだ。

普段からは考えられない積極的な行動に疑問を抱きながらも、プレセアが何をするのかと見守っていたは、次の瞬間目を見開いた。

コレットの前に立ったプレセアが、彼女に向かい斧を振り上げる。

「プレセア!?」

声を上げた時にはもう遅かった。―――刃の部分ではないが、斧の柄の部分で殴られたコレットは痛々しい呻き声を上げて地面に伏せる。

それと同時に、その場に嫌な笑い声が響き渡った。

「よくやったぞ、プレセア!」

声が聞こえたすぐ後、上空に黒い影が差したかと思うと、その影から姿を現した男は横たわるコレットを引き上げ高く飛び立つ。―――バサリと大きな羽音を立てて、数匹の飛竜は高度を上げる。

「くそっ!コリン!!」

同じく飛竜に飛び乗ろうとしていたプレセアを、コリンを召喚したしいなが何とか食い止めた。―――体勢を崩したプレセアを受け止めて、は睨み上げるように飛竜の上に立つ男を見詰る。

「わしの名はロディル!ディザイアン五聖刃随一の知恵者!再生の神子は頂いて行きますぞ。ふぁっふおっふおっ!」

男・・・―――ロディルはそう言い残し、反撃が来る前に更に高く飛び立つ。

テセアラにはいないはずのディザイアンの出現に驚愕の声を上げるロイドを無視して、はただ去っていくロディルを睨みつけた。

「コレットーっ!!」

悲痛なロイドの叫びを耳にしながら、表情には出さずに悔しさを込めて拳を握り締める。

ロイド達からの話を聞いて、まさかとは思っていたけれど。

やはりプレセアに関わっていた気味の悪いハーフエルフの男というのは、ロディルの事だったのかと、もう見えなくなった飛竜が消えた方向を見詰めながらそう思う。

少し油断していたのかもしれない。

ユグドラシルやクラトスならまだしも、よりによってロディルごときにコレットを奪われるなんて・・・―――ふつふつと湧き出る悔しさを噛み締め、は腕の中に収まっているプレセアに視線を落とした。

あんな男に目を付けられ、利用されるなんて。

「ロイド。プレセアを頼めるか」

沈んだ空気の中、静かな声でリーガルがそう促した。

それに我を取り戻したロイドは、小さく頷き手作りの要の紋をプレセアの首に掛けてやる。

シン・・・とした沈黙が落ちた。

「・・・プレセア、大丈夫?」

要の紋をつけたにも関わらず、不思議そうな表情を浮かべたまま何も言わないプレセアに、ジーニアスが控えめに声を掛ける。

するとプレセアは声を掛けたジーニアスに視線を向け、小さく首を傾げた。

「・・・私、何をしているの?―――パパは!?」

呆然とした様子で呟いたプレセアは、次の瞬間自分の家に向かい駆け出す。

突然の行動に止める事の出来なかったは、弾かれたように彼女の後を追う。

あの光景を、何の心の準備も出来ていないプレセアに見せたくは無かった。

しかしそれも全て、徒労に終わる。

が追いつくよりも早く父親が眠る部屋に飛び込んだプレセアは、目の前に広がる光景に身体を硬直させた。

「私・・・私、何をしていたの?」

震える声で呟くプレセアを戸口で見詰め、は眉間に皺を刻んだままその小さな身体に腕を伸ばす。

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」

耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫び声が、小さな家の中に響き渡った。

 

 

「・・・パパの埋葬を手伝ってくださって、どうもありがとうございました」

あれから数時間。

取り乱し錯乱するプレセアを何とか落ち着かせ、ベットに眠ったままだったプレセアの父親を家の前に埋葬した後、暗い表情でプレセアはそう感謝の言葉を述べた。

「少しは落ち着いて?」

「はい。・・・私、皆さんに迷惑を掛けていたみたいですね」

労わるようなリフィルの声に、プレセアは力無く頷き顔を上げ呟く。

どうやらエクスフィアをつけて感情を失っていた時の事も、プレセアは覚えているようだ。

「どうしてあんなエクスフィアをつけてたの?」

プレセアの隣に立ったジーニアスが、彼女の顔を覗き込みながらそう尋ねる。

「ヴァーリという人から貰いました」

「やはり・・・ヴァーリか!」

プレセアの返答に、一番反応を示したのはリーガルだった。

ヴァーリという人物についてはを含め、全員が知っている。―――抑制鉱石を得る為に向かった鉱山で、そこを守っているガードシステムを破壊し強引に中に入ろうとしていた男。

勿論らも、結局は同じような手段で中に入ったのだけれど。

病気のパパを・・・助けたかったんです。パパの代わりに働きたくて、斧を使えるようになりたかった。そうしたらヴァーリがロディルを紹介してくれて、サイバックの研究院に連れていかれたんです」

ポツリポツリと、プレセアはエクスフィアをつけるに至る出来事を話し始める。

確かに、まだ幼い子供が父親と同じように斧を使おうとするならば、エクスフィアをつける以外に方法は無いだろう。―――病気の父親を抱え生きていく為には、他に方法が無かったに違いない。

そこをヴァーリやロディルに付けこまれてしまったのだ。

確か、プレセアちゃんの実験は教皇の命令だったよなぁ・・・

ってことは、あのディザイアンと教皇はグルか!」

思い出したとばかりに呟くゼロスの言葉に、一瞬にして血を頭に上らせたロイドがそう声を荒げる。

いくら野望があるとはいえ、ディザイアンとまで手を組むとは。

教皇がディザイアンがハーフエルフの集団だと知っていたかどうかは解らないが、その執念には怒りを通り越していっそ感心するほどだ。―――あれほどまでに自分の欲望に忠実に生きられれば、それはそれは満足の行く人生になるかもしれない。

そんな事を嫌味たっぷりに考えていたは、しかし様子の可笑しいリーガルに気付いて訝しげに眉を寄せる。

リーガルがプレセアのことを知っている風なのは知っていたが、彼はプレセア自身ではなく、プレセアの血縁関係に執着しているようだ。―――勿論彼がプレセアと何かしら関係があるのなら、当の本人であるプレセアがリーガルを知らないはずはないのだが。

「プレセア、君には姉はいなかったか?」

「いません」

「他にご家族はいないの?」

妹が一人。奉公に出てそれきりです。ママは私が子供の時に亡くなったから・・・」

次々と浴びせられる質問に、プレセアは素直に答えていく。

正気に戻ったとはいえ、いまいち感情が表に出ていない気はするが、ずっと感情を失った状態だったのだからそれは仕方のない事なのかもしれない。

そんなプレセアを見て、ゼロスは呆れたように笑った。

「子供の時って・・・今も子供でしょーよ」

「ああ、そうでしたね。―――そうでした」

答えたプレセアの表情が一瞬暗く翳ったのを、は見逃さない。

聞こえてくる噂話から、その理由にも難なく行き当たる。

しかしそれを表には出さず、先ほどまでと同じように聞いているのいないのか解らない態度でただ空を見上げていた。

とりあえず疑問も一段落ついたという所で、話はこれからについてに変わる。

身寄りも無く、また村人からの風当たりも強いこの村に、プレセアを置いていくのは忍びない。

そう言ったしいなに、リフィルも同意する。

するとプレセアは、自分も一緒に連れて行ってくれないかと申し出た。

コレットが連れ去られたのは自分のせいだと深く後悔するプレセアに、全員何も言えなくなる。―――そしてそれに重なるように、リーガルもまた同行を希望した。

彼がプレセアを気に掛けている以上、そう言うだろうことは予測の範囲内だ。

寧ろすっかり馴染んでしまっている彼が、ここから別行動するなどと言い出せば、ロイドが黙っていないだろう。

「ここまで一緒に来て、どうするもないだろう」

「正論だな」

どうしようかと一応意見を求めるロイドに、しいなとゼロスが即答する。

「僕は賛成」

「・・・本当は反対したいところだけど、もうこうなる事は解っていたから」

一も二も無く賛成するジーニアスに、少し渋りながらも了承を出すリフィル。

ふとロイドの視線が、無言を守るに向けられた。

その視線を受け、はやんわりと微笑む。

「いいんじゃない。大勢いた方が楽しくて」

「・・・だってさ。2人の力を貸してくれ」

の言葉に、プレセアとリーガルに向き直ったロイドが笑顔でそう言った。

2人は少しの反対も無く出た同行の了承に、ほんの少しだけ頬を緩めて。

「はい。・・・必ず!」

「ありがとう、感謝する。我が力全てを以って、おまえの信に応えよう」

それぞれがそれぞれらしい言葉を返し、そして決意を固める。

漸く纏まった場の雰囲気に、満足そうに頷いたリフィルが先を促した。

「さあ、急いでコレットを追いかけましょう!」

「ああ。絶対にコレットを助けるんだ!!」

力強いロイドに声に後押しされるように、一行はコレットが連れ去られた東の空を見詰める。―――するとその場に、聞き覚えのある男の声が届いた。

全員が揃って振り返ると、そこには赤茶色の髪をした少し前まで共にいた男の姿。

「神子を・・・奪われたか」

先ほどのロイド達と同じように東の空を見詰めながら、クラトスはポツリとそう漏らす。

そんな彼に、ロイドは噛み付くように声を荒げた。

「またまた現れやがったな!コレットをどこへやった!!」

ロイドの声を聞きながら、はこっそりと溜息を零す。

確かに彼は自分の監視役になったと言っていたけれど・・・。

果たして今彼がここにいるのは、その為なのだろうか?―――それとも別にまた、用事があったのか。

ロディルは我らの命令を無視し、暗躍している。私の知るところではない」

今にも飛び掛りそうな勢いのロイドとは対照的に、クラトスは焦る様子も困った様子もなく、ただいつも通りの冷静さで言い聞かせるよう丁寧に説明を始めた。

「内部分裂という訳?―――愚かね」

皮肉げにそう言ったリフィルに、は内心同意する。

クルシスは巨大で強力な組織であり、その人材ももちろん豊富ではあるけれど、いまいち協調性にかけるというか、団結力に欠けるというか。

それぞれがそれぞれ、好き勝手な行動をしている。

クラトスも、ユアンも、そしても。

組織の幹部がこうなのだから、その下にいるものがそうでも可笑しくは無いのだけれど。

それにはクラトスも同じ意見なのか、あっさりと同意し意味深な言葉を漏らした。

否定はしない。しかし奴は神子を放棄せざるを得ないだろう」

「どういう事だ!?」

神子は・・・あのままでは使いものにならんのだ。捨ておいても、問題なかろう」

あっさりと言い捨てるクラトスに、は彼の考えを読み取ろうかとするようにじっとその様子を見詰める。

「冗談じゃねぇ!何としてもコレットは助けるんだ!邪魔するつもりなら・・・」

・・・ならばレアバードを求めろ。そして東の空へ向かうがいい。ミズホの民も、レアバードを発見している頃だろう」

尚も怒鳴るロイドの言葉を遮り、クラトスは言いたいだけ言ってあっさりと姿を消した。

クラトスの読めない行動に、ロイドは不可解だとばかりに表情を歪める。

しかし結果的には他に取る道もない事から、不本意ではあるが彼の言う通り、ひとまずミズホの里に戻ろうと話は纏まっていく。

その過程を聞き流しながら、は苛立ったように頭を掻き毟る。

一度も自分と目を合わそうとしなかったクラトス。

サイバックでの出来事が、まだ尾を引いているのだろうか。

そこまで考えて、不機嫌そうに眉を寄せる。―――別に、視線が合わなくとも問題は無い。

彼が何を思って行動しているのはさておき、クラトスがロイドを真に敵と見れない事ははっきりとしている。

彼がロイドにそう言ったのならば、罠の可能性は限りなく低い。

何よりも先ほどロディルが飛び去って行った方角が東なのだから、辻褄もあっているのだけれど。

「じゃあ改めて・・・。これから、よろしくね!プレセア!」

唐突にジーニアスの明るい声が聞こえ、は思考の海から浮上する。

それに「よろしくお願いします」と礼儀正しくお辞儀をするプレセアに向かい、ゼロスが砕けた態度で彼女に微笑みかけた。

「プレセアちゃん。俺さまのことはゼロスくんって呼んでね」

「はい、ゼロス君」

素直に返って来た言葉に、ゼロスは思わず感動する。

ここ最近、こんな風にまともに返事が返って来たことなどあっただろうか。―――そんな事を考える彼が、にとっては不憫で仕方が無い。

ゼロスの様子にジーニアスも便乗してプレセアに話し掛けるが、それはあっさりと邪魔が入り彼女に伝わる事は無かった。

気を取り直した一行は、改めてパーティに加わったプレセアに挨拶をし、ミズホの里に向けて歩き始める。

それに遅れて付いて歩くは、少し前を歩いていたプレセアが最後尾にいる自分の隣に並ぶのに気付いて小さく首を傾げた。

「どうかした、プレセア?」

「・・・あの」

戸惑った様子で自分を見上げるプレセアに、は胸に溜まっていたイライラが消えていくのを感じ、代わりに優しく微笑む。

「あの・・・これからもよろしくお願いします、さん」

プレセアの控えめな挨拶に、ほんの少し目を見開く。

そう言えば出逢ってそれなりに時間が経つが、名前を呼ばれたのは初めてのような気がする。

それが何となくくすぐったくて・・・けれど嬉しくて、は更に笑みを深めた。

「よろしくね、プレセア」

今までと同じように手を繋げば、少し照れたようにそっぽを向きながらも、しかし決して手は振り払われる事はなく。

今までとは違う反応を微笑ましく思いながら、はプレセアと手を繋いだままロイド達の後に続いた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

あえてするコメントがありません。(おい)

もう題名付けるのに悩んで悩んで、結局こんな感じに。(内容にほとんど関係ない)

やっぱり忠実にゲームに沿おうとすると、なかなか余計な話を入れられません。

なので無理矢理最初の方が・・・。

でもこの辺飛ばすと、後で意味不明になりそうなので・・・。(ああ、どうしたら)

作成日 2005.11.18

更新日 2011.6.26

 

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