ディザイアン五聖刃・ロディルに囚われたコレットを救う為に必要な事。

1つ、そこへ行く為の手段。

これは力を貸すと申し出てくれたミズホの民のお陰で、空を飛ぶ事が出来るレアバードの在り処が無事判明した。

現在レネゲードのテセアラベースに安置されているらしく、多少危険はあるがそこに乗り込み奪ってしまえば良い。

しかし問題が1つ。―――それはレアバードが飛ぶ為の力の源となる、雷の精霊ヴォルトとの契約がまだ済んでいない事だ。

しかしヴォルトのいる場所は既に解っている。

そしてその為の召喚士もいる。

ならば後はそこに行き、ヴォルトと契約を交わせば良いだけの話なのだけれど。

再び訪れたミズホの里で、ロイドとコリンから必死の説得を受けながらも、しかし怯えた様子で自分の殻に閉じこもっているしいなを見詰め、は困ったように肩を竦めた。

 

憂鬱なる召喚士の挑戦

 

「しいなはまだ、吹っ切れないのね」

説得をロイドとコリンに任せ傍観の姿勢に入ったリフィルが、少し離れた場所でその光景を見ながらポツリと呟いた。

その呟きに返事を返すわけでもなく聞きながら、全員がしいなに視線を向ける。

ロイドの説得を大人しく聞いているしいなは、しかしその表情に苦しみと悲しみを宿し、いつもの明るい笑顔など影も形も無い。

「・・・なかなか簡単にはいかないでしょうね」

少しの間の後、リフィルの言葉の返事のつもりなのかも同じくポツリと呟く。

しいなは以前、召喚士としてヴォルトと契約を交わす為、ミズホの民の者たちと共に彼が存在する雷の神殿へ向かった事があった。

しかし結果は、今現在しいながヴォルトと契約できていない事を見れば明らかだ。

しいなは、ヴォルトとの契約に失敗した。

それだけならまだ良かったのだ。―――しかしその失敗が招いたものは、雷の神殿へ共に向かったミズホの民の死と、彼女の親代わりである頭領が意識不明のまま眠りから醒めないという現実だった。

そんな過去を持つしいなが、今回のヴォルトとの契約に怯えを見せるのはある意味仕方の無い事なのかもしれない。

「でもさ。あれだけ恐がってるのに、よくウンディーネと契約なんて交わせたね。一体どういう心境の変化なの?―――それともしいなが恐いのは、ヴォルトだけ?」

ふとジーニアスが顔を上げ、しいなと一番親しいであろうにそう疑問をぶつける。

するとは、にっこりと微笑んで一言。

「ウンディーネの時はね。私がしいなを騙して、契約の場に連れて行ったようなものだから」

「・・・だ、騙して?」

「そう、騙して。そうでもしなきゃ、あのしいなが自分から精霊に近づく訳ないじゃない」

あっさりとそう言われ、ジーニアスはなんともいえない表情で曖昧に相槌を打った。

にこにこと微笑みながら人を騙すと、騙されてウンディーネの元に連れて行かれながらもちゃんと契約を交わしたしいなと、どちらに感心すればよいのか・・・。

「んじゃ、今回も騙して連れてっちまえば、案外吹っ切れるんじゃねーの?」

とジーニアスの話を聞いていたゼロスが、軽い口調で口を挟む。

しかしはそれを否定し、重いため息を吐き出した。

「雷の神殿の場所を知っているしいなを、どう騙せっていうの?」

「・・・そらまぁ・・・」

「それに、相手は彼女の恐怖の象徴でもあるヴォルトなのよ。騙してウンディーネと戦わせるのとは訳が違うわ」

説得力のあるその言葉に、ゼロスはそれもそうだと納得し口を噤む。

それと入れ違うように、今度はプレセアが口を開いた。

「どうしてしいなさんは、ヴォルトとの契約に失敗したんですか?」

「そうね。ウンディーネとの契約を貴女としいなの2人で成し遂げたのだもの。いくらヴォルトの力が強くても、ミズホの民大勢と共にヴォルトと戦って勝てないわけがないと思うのだけど・・・?」

リフィルもプレセアと同じように小さく首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべる。

それを見ていたは、向けられた質問に苦笑を浮かべて答えた。

「言葉が通じなかったらしいわよ」

「・・・言葉が?」

「ヴォルトが何を言っているのか・・・しいなには全く解らなかったらしいわ」

精霊と契約を交わす手段は、言葉の遣り取りだ。

精霊は契約者の誓いによってそれを交わすが、しかし言葉が通じなければ心を通じ合わせるのは難しい。―――それが人という存在が相手ならばまだしも、未知なる存在である精霊となれば混乱しても可笑しくは無い。

そうして混乱し戸惑っている内に、ヴォルトは暴走し多くのミズホの民が命を失った。

「・・・だが、それは彼女のせいではないだろう?」

今まで無言で話を聞いていたリーガルが、気遣うような眼差しでしいなを見詰める。

それに引かれるように、もまたしいなに視線を向けた。

「だけど、しいなは自分のせいだと思ってる。自分が何も出来なかったから、仲間たちが命を落としたと・・・そう思ってる」

「・・・・・・そんな」

「それはとても悲しい。とても辛くて、苦しくて・・・―――常に絶望が隣にあるような。いつも誰かに責められているような・・・そんな罪悪感が何時までも消えずに、心の中に在り続ける。どうして良いか、解らなくなる」

低く抑揚の無い声で、淡々と語る

その表情には、しいなの浮かべるものと同じくらい悲痛な色が浮かんでいる。

そんなを前に、全員が何も言えずにただ呆然と彼女を見詰めていた。

がどんな後悔を抱いて生きているのか、ゼロスたちは知らない。

しかしそれが生半可なものではないのだということだけは、しっかりと理解できた。

暗く沈んだ空気の中、遠くからロイドの励ましの声が聞こえる。

その声に顔を上げたは、今も尚沈んだ表情を浮かべるしいなを見て何度目かの溜息を吐いた。

「だからといって、このままで良い筈が無いのよね」

まるで自分に言い聞かせるように呟き、腰を下ろしていた岩からゆっくりと立ち上がる。

「・・・さん?」

「どうせ他に方法はないのだし・・・―――これも良い機会だわ。このチャンスに、しいなには恐怖を克服してもらいましょうか」

戸惑いを含んだプレセアの声にも答えず、は振り返りもせずに歩き出し、そうして俯くしいなの前に静かに立つ。

その気配に気付いたしいなが顔を上げると、そこには綺麗な笑みを浮かべたが。

眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうな表情のしいなが、何かを言おうと口を開きかけたその時、ガシリとの手がしいなの頭を押さえ込んだ。

「な、なにす・・・!!」

「いい加減にうじうじ悩むのは止めなさい。考えたって答えなんて出てこないんだから」

文句を言いかけたしいなは、のその言葉に目を釣り上がらせる。

一気に頭に血が上り、その冷たい作り物のような綺麗な笑みを睨み上げた。

「そんな事解ってるよ!解ってるけど・・・しょうがないだろ!恐いものは恐いんだ!!」

「何が恐いの?」

「・・・また!またあの時みたいに、失敗したら・・・。あの時みたいに失敗して、みんなが・・・!!」

静かな声で問い掛けるに、しいなは思いが上手く言葉にならないのか喉を詰まらせながら必死に声を張り上げた。

「けれどロイドは言ったでしょう?貴女は失敗しないって。―――今の貴女はあの頃の貴女とは違う。絶対に大丈夫だって、彼は言ったでしょう?」

「・・・言ったけど!言ったけど・・・でも、そんな保証なんてどこにもないんだ」

声は少しづつ弱々しくなり、語尾は微かに震えている。

同じく震える身体に気付かれないようにと、しいなは力一杯拳を握り締めた。

もしまた、失敗してしまったら。

みんなを失ってしまう事が恐い。―――なによりも、それが。

未だしいなの頭の上に手を置いていたは身体の震えを直接感じ、小さく息をつくと彼女と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。

「いい、しいな?よく聞いてちょうだい」

噛み締めるように声を掛けると、しいなが微かに顔を上げた。

「何を恐れる必要があるの?言っておくけど、ここにいるのはみんな、殺しても死なないような連中ばかりなのよ?」

「・・・・・・」

の言葉に、しいなは二の句が告げずに口を噤む。

視界の端でロイドが何か言いたそうに口を開け閉めしていたが、それが言葉になる事は無かった。

「私たちは死なない。誰も、絶対に」

一言一言力強くそう言えば、しいなは軽く目を見開いてを見返す。

そんなしいなに、は再び綺麗な笑みを浮かべた。―――しかしそれは先ほど感じたような冷たいものではなく、まるで子供を見守る母のような・・・。

「しいな。私が貴女に嘘をついたことがあった?」

軽い口調で問い掛けられ、しいなはユルユルと首を横に振る。

は今まで一度も、自分に嘘をついたことはないとしいなは知っている。―――少なくとも、それをしいなが感じた事は今まで一度も無い。

その返事に満足したのか、はゆっくりと立ち上がり、未だしゃがみこんだままのしいなに右手を差し出して。

「それじゃ、行くわよ」

短い言葉にしかし抗えず、しいなは強い何かに引かれるようにその右手に自分の左手を重ねた。

「・・・もし、またヴォルトが暴走したら」

「俺がヴォルトをぶった切る!それで終わりだ・・・な?」

引かれるままに立ち上がったしいなが小さな声で呟くと、にっこりと笑顔を浮かべて隣に立つロイドが力強く言う。

それに勇気付けられるように、しいなは弱々しい瞳を消し去り、しっかりとその瞳に強い光を宿して頷いた。

 

 

鋭い閃光と、その後に続く耳を貫くような大きな音。

そして肌を走るピリピリとした感覚に、一行は呆然とその場に立ち尽くした。

雷の精霊・ヴォルトがいるという雷の神殿。

そこに契約の為に向かった一行は、しかし神殿内のあまりの惨状にそれぞれが引きつったような表情を浮かべる。

「・・・ほんとに、ここなの?」

絶え間なく落ちる落雷により静かとはいえないその空間に、ジーニアスの声がポツリと落ちた。

それにしいなは再び怯えたような表情を浮かべながらも、肯定の為に1つ頷く。

「何でこんなに落雷が激しーんだ?」

「雷の神殿だからでしょ」

乾いた笑みを零しながら1人ごちるゼロスに、はサラリと突っ込みを入れた。

全く以ってその通りなのだけれど・・・―――けれどそんな答えが欲しいわけではない。

ならばどんな答えを望んでいるのかと言われれば、答えられないのだけれど。

「ともかく、何時までもここにいても仕方ないわ。―――先に進みましょう」

リフィルの最後通告に、一行は引く事も出来ずにお互い顔を見合わせて決意を固めると、揃って神殿内に足を踏み入れた。

そこからがまた大変だった。

神殿内の造りはとてもややこしく、また何の為かは解らないが張り巡らされた仕掛けは複雑で。

それでも何とか先に進み、それなりに神殿内部まで来たかと思われた頃、ある通路に足を踏み入れたロイドが突如声を上げた。

「うわっ!なんだよ、ここ。真っ暗じゃんか!」

その声に引かれるように通路を覗き込んだ他の面々は、一寸先も前の見えない暗闇に思わず言葉を失う。

「・・・もしかして、ここを通るのですか?」

「いや、だが・・・前が見えなくては危険だろう」

小さく首を傾げるプレセアに、全く危機感を感じない声でリーガルが答える。

しかしここを通る以外に道はなさそうだということは、散々迷い歩き回った一行には嫌というほど解っていて。

「僕と姉さんが先頭に立って歩くよ。ハーフエルフは夜目が利くから」

というジーニアスの申し出もあり、一行は渋々ながらもその通路に足を踏み入れる。

時折落ちる雷が辺りを照らし、そこがとても高いところにある細い通路なのだという事を思い知らされる。―――勿論壁もないので、伝って歩くなどという方法も取れない。

「プレセア。危ないから手を・・・」

最後尾を歩くが、少し前を歩くプレセアに声を掛け左手を差し出す。

それに素直に右手を差し出し、自分の左手を握るプレセアを確認してから、は余った右手を自分の隣を歩くしいなに差し出した。

「しいなも。危ないから手を握っていなさい」

「・・・でも」

「こんな所から落ちたくないでしょう?」

穏やかに問い掛けれれば、答えは勿論決まっている。―――しいなは「悪いね」と小さな声で呟きながら、の右手を取った。

そこから伝わる微かな震えに、は強くしいなの手を握り締める。

「・・・大丈夫だから」

落ち着かせるように声を掛けると、しいなが手を握り返してきた。

この場所はしいなにとって悪夢の場所だろう。

いくら立ち向かう決意したからとはいえ、恐怖がなくなるわけではない。―――怯えるしいなから恐怖を取り除いてやる事は出来ないが、こうして手を握っている事くらいは出来る。

それで少しでも落ち着き、いつもの調子を取り戻してくれれば良いのだけれど。

そんな事を考えていたは、前を歩いていたゼロスが突然立ち止まった事に反応できず、その背中に思いっきり顔をぶつけた。

「・・・ゼロス」

恨めしげに自分よりも高いところにあるゼロスの顔を睨み上げれば、暗い中でもしっかりと見えるゼロスが不満そうな顔でを見下ろしている。

ちゃん、俺様は?」

「・・・は?」

言われた事の意味を把握できず、は間の抜けた声を上げる。

しかしゼロスはそれを気にせず、もう一度同じ言葉を続けた。

ちゃん、俺様は?俺様には手貸してくれないわけ?」

「・・・そんな事言っても、私の手は2本しかないし」

「その2つの選択肢の中に、俺様は含まれてないわけね」

「残念ながらね」

しれっと言い切ったに、ゼロスはがっくりと肩を落とす。

大体、私とゼロスが手を繋いでたら気持ち悪いでしょうが。―――などと追い討ちを掛けるに、しかしゼロスは恨めしげな視線を向けて。

「最近、何かお前俺に冷たくねぇか?」

「そうかしら?前からこんなものだったと思うけど・・・」

それはそれで悲しいものがあるのだが・・・―――以前ならば大抵はとゼロスの2人だけで行動していたし、そこにしいなが加わる事はあっても、の守護対象は自然とゼロスに向いていた。

しかし今現在、はプレセアの事を非常に気にしており、そこに加えて今回のしいなの様子。

当然の事ながら、ゼロスが後回しにされるのは仕方の無いことだった。

って俺様の護衛なんじゃないのか〜?いや、まぁ別に良いんだけど。

などとぶつぶつと呟きながらも仕方なく歩みを進めるゼロスを見やり、は小さく溜息を吐く。

別にゼロスはに庇護してもらわなければならないほど弱くも、甘えたでもない無い筈なのだが・・・―――最近無下に扱われる事が多く、少し拗ねているのかもしれない。

子供じゃないんだから・・・と心の中でぼやきながらも、そんな風に心を許しているのは自分だけだと分かっているは微かに口角を上げ、すぐ前を歩くゼロスの背中に向かい溜息混じりに声を掛けた。

「そんなに落ちるのが心配なら、私のコートの裾でも握ってれば?」

「・・・なんかそれじゃ、子供みたいなんだけど?」

「別に嫌なら良いのよ。無理にそうしろなんて言ってないわ」

首だけで振り返り、ゼロスは半目になりながらそう言う。

それに対しあっさりとそう返事を返せば、ゼロスは仕方ないとばかりに息を吐き、の後ろに回りこみ彼女の長いコートの裾を摘み上げた。

「・・・つーかさ、もし俺様が足踏み外しても、これじゃお前支えきれないだろ?」

「そうね。いくらなんでも無理ね」

「んじゃ、こうやって掴んでても無駄なんじゃねーの?」

「そんな事無いわよ。ゼロス1人が落ちるよりはマシでしょう?」

サラリと何でもないことのようにそう言い放つを見下ろして、ゼロスは困ったように苦笑を漏らした。

「なんだよ、それ。俺様1人で落ちようとと2人で落ちようと、事態変わんねーじゃん」

そう言いながらもコートから手を離さないゼロスを、の右手を握っているしいなが呆れたように振り返る。

そう思うのならば、掴まなければ良いのに・・・と思いながらも、しかししいなはそれを言葉には出さなかった。

薄暗闇に浮かぶゼロスの顔が、満足げに微笑んでいたのを彼女は確かに見た。

「ロイド!そっち危ないって!!」

「うわっ!・・・怖ぇー・・・」

前方から聞こえてくる慌てた声に、しいなはよそ見をしている場合ではないと、決して見えない進行方向に視線を戻す。

広い空間に響くのは、ロイド達の悲鳴とジーニアスやリフィルの焦った声。

それを聞き流しながら、しいなはに先導されるまま歩き続ける。

「・・・ゼロス?さっきから妙に静かだけど・・・どうかした?」

不意にが、先ほどから一言も言葉を発しないゼロスを不審げに声を掛ける。

いつも無駄に騒がしい彼がこうも静かだと何となく落ち着かないと言いたげなと同じく、しいなも小さく首を傾げた。

不思議に思いが振り返ろうとした首を捻ったその時、腕に微かな布の感触がし、しいなが何かと背後を振り返ると。

「いや〜。やっぱ、いい足してるなぁ〜・・・」

ヒラリとのコートの裾を捲り上げたゼロスが、感心したように呟く。

それは先ほどの彼女の言葉に対するゼロスの照れ隠しなのだろうと、簡単に想像はついたのだけれど。

だからといって、としいながそれを見過ごす筈も無く。

「・・・この、エロ神子!!」

しいなの怒声と共に、としいなの必殺の一撃がゼロスの腹部に見事決まった事は、同じくの隣を歩いていたプレセアしか知らない。

突如その場に響いた鈍い音と呻き声に、前方を歩いていたロイド達が首を傾げたが、結局彼らに真相が明らかにされる事は無かったらしい。

 

 

張り巡らされた仕掛けを解き、何とか神殿最深部まで辿り着いた一行は、落雷を免れ無事な我が身にホッと安堵の息を吐いた。

約一名は、強烈なダメージを負っていたが。

「・・・俺様、もうダメかも〜」

「ふん。自業自得だよ、アホ神子が」

へろへろになり床に座り込んだゼロスを、しいなは怒り治まらない様子で睨むように見下ろした。

「ゼロス君、最低です」

それに加え、唯一当事者以外で現場を目撃していたプレセアも非難の声を上げる。

「なんだよ。暗い雰囲気を一掃してやろうっていう、俺様の優しい心遣いがお前らにはわかんねーの?」

「解るか!あんたのはただのセクハラだろ!」

座り込んだまま不貞腐れたようにそっぽを向くゼロスの頭に、しいなの手加減なしの制裁が下る。―――ゴンと重そうな音を立てて振り下ろされた拳は、ゼロスを悶絶させるのには十分な威力を持っていた。

その光景を見ていたロイド達は、彼らの間に一体何があったのかが解らず、不思議そうに首を傾げて状況を見守るばかり。

しかしリフィルだけが全てを理解しているのか、眉間に皺を寄せて呆れたようにこめかみを押さえている。

「痛ってー!しいな、何でお前がそんなに怒るんだよ!別にお前がやられたわけじゃねーんだからかんけーねーだろ!!」

に関することなんだから、あたしに関係ないわけないだろ!?―――ったく、もなにか・・・」

ゼロスとの怒鳴りあいの最中、しいなは漸く何も言わないに気付いて矛先を彼女の方へと向けた。

はしいなとは違い、ゼロスがどんな馬鹿をしても最後の最後では許してしまう。

それも時と場合と程度によるが、あまりにも甘すぎると声を張り上げようとしたその時、がどこか一点を見つめている事に気付いた。

他のメンバーもそんなに気付いたのか、自然と彼女の視線の先へと顔を向ける。

視線の先には、大きな祭壇のようなもの。

それはシルヴァラントで世界再生の旅の途中に寄った、封印の間によく似たもので。

それを目に映した瞬間、先ほどまで怒鳴り声を上げていたしいなが唐突に口を噤んだ。

見るからに身体を強張らせ、目を見開いて祭壇を凝視している。

「・・・あ・・・・・・」

上手く言葉にならないらしく、呆然と呟いたその時。

バチリと何かの弾けるような音と共に、その場に大量の電気が放出された。

ビリビリと肌に伝わるその強い刺激に、何事かと一行は身体を強張らせる。

そうして唐突に・・・―――本当に唐突に、祭壇の中央に黒い固まりが出現した。

「なんだ!?もしかして、こいつが・・・」

放電しながら大きな目をこちらに向ける黒い物体を前に、ロイドが驚愕の様子を見せる。

「・・・ヴォルト」

としいなの呟きが重なり、呆然と立ち尽くすロイド達の耳に届く。

「こいつがヴォルト?」

「何か・・・想像してたのと違う」

ロイドとジーニアスが顔を見合わせて感想を伸べた。―――彼らにとっては、ウンディーネ以外に初めて見る精霊。

ウンディーネのような精霊を想像していた彼らにしてみれば、予想外もいいところだ。

「********」

そんな呑気な会話を交わしていたロイド達に構わず、ヴォルトが何か言葉を発した。

正確に言うならば、それが言葉だと断言は出来ない。―――何故ならば、ロイド達にはヴォルトが何を言っているのか解らなかったのだから。

「まただよ!また・・・こいつは何を言ってるんだ!!」

しいなのうろたえる姿を目に、一同は漸く思い出した。

彼女がヴォルトとの契約に失敗した原因は、言葉が通じなかったからなのだ。

「*****」

ヴォルトが再び音を発した。―――それと同時に、部屋中を鋭い雷電が走る。

「・・・くっ!!」

その突然の攻撃に、何の準備も出来ていなかったロイド達は避ける事も出来ず、全身でそれを受ける羽目になった。

強烈な電撃は、人の身体能力を麻痺させる力がある。

例外に漏れず、それを受けたロイド達は床に倒れ、痺れる身体に身動きが取れなくなった。

「みんな!!」

同じように雷撃を受けたしいなは、床に伏しながら悲痛な声を上げる。

「これじゃ、あの時と同じじゃないか!!」

視界に映る固い床を睨みつけながら、しいなはその目に雫を宿しながら強く唇を噛み締めた。

胸を占める恐怖と、そして少しの悔しいという気持ち。

今度こそはと決意してここまで来たというのに、結局自分は・・・。

そう思いぎゅっと目を閉じたしいなの耳に、カツンという静かな音が届いた。

それに引かれるようにして目を開け顔を上げれば、倒れる自分たちから少し離れた場所に佇むの姿が映る。

「・・・?」

あの雷撃を受けて、どうしてが立っていられるのかが解らず、しいなは眉間に皺を寄せてただその姿を見詰めた。

「*****」

ヴォルトが佇むを見据えて、音を発する。

しかし先ほどとは違い、精霊は雷撃を放とうとはしない。―――ただ静かに、時折理解できない音を発しながらに視線を注いでいた。

「**********」

何度目かのヴォルトの問い掛けのような音に、は感情の読み取れない無表情に困ったような笑みを浮かべる。

「それが、必要だからよ」

が口を開くと同時に、巨大な雷が部屋の中に落ちた。

しかし彼女が発した言葉は、しっかりとしいなの耳にも届く。―――それと同時に、の言葉に反応したのか、ヴォルトが再び雷撃を繰り出した。

それはには向かわず、動く事も出来ずに床に伏すしいなへと向かう。

振り返ったが、攻撃対象となったしいなを驚愕の表情で見詰めたその時。

もうダメだと堅く目を瞑ったしいなは、しかし予想された痛みが一向に襲わない事を不思議に思い恐る恐る目を開く。

そして、そこにある残酷な現実に、呆然と目を見開いた。

「コリン!・・・コリン、どうして!?」

自分を庇いヴォルトの攻撃をその身に受けたコリンが、力無く床に倒れる。

「しいな、しっかりしろ!」

「でもっ・・・!!」

あまりの出来事に取り乱すしいなにロイドが声を掛けるが、しかししいなは耐えていた涙を零し、まだ麻痺の残る身体をぎこちなく動かしながらコリンの体に手を伸ばした。

それを見ていたは深く眉間に皺を刻み、再びヴォルトに視線を戻す。

「全ての人間を憎む。・・・それが貴方の出した結論なの?」

「・・・・・・」

静かな声で問い掛けるに、返事は返ってこない。

しかしは引かず、そのまま言葉を続けた。

「貴方が憎むべきなのは、彼女たちではない筈よ」

背後でコリンが最後の力を振り絞りしいなを励ます言葉を聞きながら、痛そうに表情を歪めたを、ヴォルトは何も言わず、何をせずにただ静かに佇んでいた。

コリンの励ましに恐怖を捨て去ったしいなが、ヴォルトと向き直る。

それと同時にもヴォルトから視線を逸らし、しいなと入れ違いになるように床に倒れるコリンの元に歩み寄った。

「・・・コリン」

小さく名を呼んで、ほとんど力の抜けた小さな身体を抱き上げる。

「・・・

可愛らしい声で自分を呼ぶ精霊を見下ろしながら、はやんわりと微笑んだ。

、しいなのことよろしくね」

「コリン」

「しいな、いつも強がってるけど・・・でも本当は凄く繊細な子だからさ」

「知ってるわ」

即答すれば、コリンは満足げに笑う。

「しいなはの事すごく好きだから。だからが側にいるなら安心・・・」

少しづつ小さくなっていく語尾と共に、コリンの身体も薄く消えていく。

そうして抱いていた筈の腕に何の重みも感触も無くなってしまってから、は祈るようにソッと目を閉じた。

背後からはリフィルの通訳のお陰で漸くヴォルトとの意思の疎通を交わし、悪夢のような過去を経て漸く契約を交わすことに成功したしいなが、脱力したように小さく呟く声が聞こえる。

しかし全てはそれで終わりではないらしく、しいなが既に契約を終えているウンディーネが唐突にその場に姿を現した。

そして彼女は語る。

2つの世界の楔は放たれた、と。

シルヴァラントとテセアラ。

どちらか片方の世界の精霊が眠っている状態であるのが常であるというのに、今回しいながウンディーネとヴォルトという2つの精霊と契約を交わした事により、初めて2つの世界で同時に精霊が目覚めた事になる。

それにより、2つの世界を流れるマナが分断されたのだという。

2つの世界の精霊すべてを目覚めさせれば、やがて2つの世界は分断されるだろうという事。

それによりどういう事態になるのかは解らないが、お互いマナを搾取しあうという問題点は解決されるかもしれないということ。

それに希望を見出したロイド達は、自分たちのしている事が間違いではないのだと思い更にやる気を漲らせる。

それを1人離れて聞いていたは、喜び合うロイド達越しに自分を見詰めるウンディーネとヴォルトを見詰め返した。

何も言わず、責めるでも無く、ただ慈しむようなその眼差しに、は耐えられないとでも言うように視線を逸らし、胸を押さえるように服を掴む。

どうしてそんな目で自分を見るのだろうか?―――記憶を取り戻した以上知ってはいるが、だからといって理解できるわけではない。

そんな感情を、向けて欲しいのではない。

「彼らが憎むべきなのは・・・」

小さな声で呟いて、ただただ拳を握り締め床を睨みつける。

そんな彼女を見詰める視線に、今のが気付く事は無かった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

とうとうゼロスがセクハラ扱いに・・・!!

本気でゼロスファンに怒られてしまいそうです。(だったら止めろ)

なんだかんだと設定を作り組み込んでいるのは良いのですが、そのせいでかなり意味不明な内容になってしまってすみません。

そしてそれを、自分が全て覚えているのかどうかも怪しい状態なのですが。(オイ)

作成日 2005.11.22

更新日 2011.10.23

 

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