・彼と彼女の物語・

 

 

 

モノクロームの街の中、君だけが色を持っていた 彼と彼女の出逢い。死を望む女と阻む男。

「少し揺れるぞ」

差し出されたその手には、一片の打算もなく 目覚めて最初に見えたのは、見覚えのない天井だった。

「・・・やっぱ、聞こえてたんだ」

暖かいその光は、凍えた心をすっかり溶かしてしまった 療養中に。人によって、大切な事は違ったりする。

「ファミリーネームを名乗れない理由でも?」

生きる理由を与えて、生きる意味を教えて 理解不能な彼女の言葉の真実。最初で最後の『契約』。

「忘れてないよ。だからこれでチャラだよね」

素のままの自分が好きだと、そう告げてくれたから それなりに育まれる日常。彼の後悔と、上機嫌な彼女。

「期待はしていない」

君には一生敵わないのだろうと、

       喜びによく似た諦めで、笑ってしまった

戦場にて。それぞれの価値観、それぞれの戦い方。

「・・・馬鹿な真似をするからだ」

君が居ることで、僕は心の均衡を保っていられる 彼女のご機嫌取りの為に、レストランへ訪れた2人は。

「恥ずかしいのはお互い様だ」

君がいなけりゃ、何の意味もない 彼と彼女の日常。彼の乱入で場が混乱するのも日常。

「・・・なに、その急な話題転換」

マジョリティに抗する程の勇気もなかった自分 第三者から見た2人。勝手な想像に盛り上がる外野。

「じゃあよ。俺たちで協力してやるか」

あの日あの時あの場所で、君だけが僕を見つけてくれた ふとした瞬間に思う事。彼女の過去と現在とこれから。

「・・・まぁ、いい。さっさと行くぞ」

 

 

『君で変わっていく10のお題短文篇』

リライト  甘利はるき さま

 

 

イノセンストップへ戻る